2008年6月中旬、医学部の定員削減を定めた1997年の閣議決定が事実上撤回され、医師養成数増加に転じる方針が固まったことが報道されました。この歴史的な政策転換を受け、私たちは、国会議員の皆さまが、わが国の医師数と医療費についてどれほどの規模が望ましいと考えておられるのか、お聞きしたいと考えました。急なお願いにもかかわらず、多くの国会議員の皆さまが回答をお寄せくださいました。誠にありがとうございました。会員一同篤く御礼申し上げます。
調査方法について
対象:衆議院議員480名・参議院議員242名、計722名
方法:2008年7月14日に、5つの設問に参考資料を添付したアンケートを郵送した。また、メールアドレスがある場合はE-mailでも同様のアンケートを送付し、7月25日を締切として回収した。回収方法はE-mail、Fax、同封した返信用封筒による郵送のいずれでも可とした。
解析:7月30日午前中までに到着した88名の回答のうち、5問のいずれかに何らかの回答がなされた86名の回答を有効回答として解析を行った。グラフ作成においては、複数回答したものは重複を許さず(例:1人で記号3つ回答した場合、各項目0.33人でカウントする)集計した。各党の解答総数に対する百分率結果をグラフに付記した。
なお、7月30日午後以降に到着した回答を加えて解析した結果は、9月下旬をめどに確定版として発表する予定である。
アンケート結果:
| |
回答数 |
回答率(%) |
有効回答数 |
有効回答率(%) |
全体 |
| 自民党(390) |
18 |
(4.6%) |
18 |
(4.6%) |
390 |
| 民主党(224) |
41 |
(18.3%) |
40 |
(17.9%) |
224 |
| 公明党(52) |
1 |
(1.9%) |
0 |
(0%) |
52 |
| 共産党(16) |
16 |
(100%) |
16 |
(100%) |
16 |
| 社民党(12) |
6 |
(50%) |
6 |
(50%) |
12 |
| 国民新党(8) |
3 |
(37.5%) |
3 |
(37.5%) |
8 |
| 新党大地(1) |
0 |
(0%) |
0 |
(0%) |
1 |
| 新党日本(1) |
0 |
(0%) |
0 |
(0%) |
1 |
| 無所属(18) |
3 |
(16.7%) |
3 |
(16.7%) |
18 |
| 合計 |
88 |
(12.2%) |
86 |
(11.9%) |
722 |
【設問1】
望ましいと考えられる人口あたりの医師数についてお聞かせください。⇒コメント集1
参考資料: WHO加盟国の医師数
(WHO) より抜粋
a. -1.50/千人
(ボスニア・ヘルツェゴビナ、中国、サウジアラビア)
b. 1.50-1.75/千人 (韓国、クウェート)
c. 1.75-2.00/千人 (【日本現状:1.98/千人】、ドミニカ共和国、ベネズエラ)
d. 2.00-2.50/千人 (カナダ、オーストラリア、英国)
e. 2.50-3.50/千人 (米国、フランス、ドイツ、北朝鮮)
f. 3.50/千人- (ロシア、キューバ、ベルギー)

現状よりも少なくすべきという意見は、皆無であった。「e.2.50-3.50/千人(米国、フランス、ドイツ、北朝鮮)」という回答が最も多く、全体の70%近くを占めた。2.50/千人の場合には医師の増員は6万2000人、3.50/千人の場合には18万2000人の増員が必要となる。
【設問2】
当面目標とする年間あたりの医師養成数についてお聞かせください。⇒コメント集2
参考資料:医師数及び平均年齢,施設・業務の種別・性・年齢階級別(厚生労働省)より抜粋
a. - 7,000人/年
b. 7,000- 7,500人/年
c. 7,500- 8,000人/年 【日本現状: 7,500-7,900人/年、2002-2008年度】
d. 8,000- 9,000人/年
e. 9,000-13,000人/年 【超党派議連* の目標: 12,000人/年】
f. 13,000人/年-
現状より少なくすべきという意見は、皆無であった。最も多い回答は、超党派議連*
の目標12,000人に近似した「e.9,000-13,000人」という意見で、全体の50%以上を占めた。
* 超党派議連とは、「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」をさす。
【設問3】 社会保障費の自然増のうち、2200億円/年の削減を堅持すべきか否かお聞かせください。⇒コメント集3
参考資料:国民医療費,年次×年齢階級別(厚生労働省)より抜粋
a. 2200億円/年の削減を堅持すべき
b. 2200億円/年の削減は撤回すべき
c. その他

与野党を問わず、「b. 2200億円/年の削減は撤回すべき」という回答が過半数を占め、全体では90%近くを占めた。ちなみに、報道によると、2008年7月25日、2009年度予算の概算要求基準(シーリング)において、社会保障費の自然増を2200億円抑制することで財務相と厚生労働相との間で合意がなされている。
【設問4】
来年度一般財源化予定の道路特定財源のうち、医療/福祉にどの程度回すべきとお考えかお聞かせください。⇒コメント集4
参考資料:国民医療費,年次×年齢階級別(厚生労働省)より抜粋
a. なし
b. 0.5兆円(5000億円)程度
c. 1兆円程度
d. 1.5兆円程度
e. 2兆円程度
f. 2.5兆円程度

記号回答は分かれたが、その中でも最も多い回答は「c.
1兆円程度」であった。また、この設問においては、記号回答は選択せず、コメントのみの回答が多くみられた。
【設問5】 当面目標とする理想的な医療費総額(対GDP比)についてお考えをお聞かせください。⇒コメント集5
参考資料:WHO加盟国の医療費
(WHO)より抜粋
a. - 6.0%
(北朝鮮、韓国、中国、スイス)
b. 6.0- 7.0% (メキシコ、ルーマニア、アフガニスタン)
c. 7.0- 8.0% (【日本現状:7.9%】ブラジル、フィンランド、オーストリア)
d. 8.0- 9.0% (英国、イタリア、イスラエル)
e. 9.0- 10.0% (オーストラリア、カナダ、スウェーデン)
f. 10.0- 15.0% (ドイツ、フランス、スイス)
g. 15.0%- (米国)
現状以上の医療費(対GDP比)を当面の目標とする回答が多く見られた。最も多い回答は「f.
10.0-15.0%(ドイツ、フランス、スイス)」で30%近く、次いで「e.
9.0-10.0%(オーストラリア、カナダ、スウェーデン)」が25%近くであった。
国会議員の皆さまより、記号回答の他にお寄せいただきましたコメントから、当連盟会員より、特に傾聴すべきものとして支持された、秀逸なご意見を抜粋して掲載いたします。敬称は略させていただきます。なお、ご回答いただきましたすべての国会議員の皆さまのコメント回答は、当連盟ホームページ上(設問1、設問2、設問3、設問4、設問5)でご覧いただくことができます。
ここにあげたコメントの他にも、数多くの丁寧なコメントが寄せられています。今回ご回答いただいた国会議員の皆さまが、社会保障に真摯に取り組んでいらっしゃる姿勢がうかがわれ、非常な感銘を受けました。たとえ医師にとって厳しいご意見であっても、医療について真剣に考えていただいていることが実感できました。
■篠原 孝 (民主党) どうして人口比のみにするのか。医師へのアクセス時間も考えるべき(例えば、地方は人口が少なく、医師にかかるのが大変)。面積または距離の平均も必要。さもないと都市部の解決にしかならない。食べ物については、フードマイレージ(重量×輸送距離)を作り指標としている。医師の場合、距離×人数の合計で積算してみて比較すべき。
■小池 晃 (共産党) 「望ましい医師数」という設問であれば、できるだけ多くという選択肢になります。もちろんその場合には、日本の国民医療費の水準を大幅に引き上げることと合わせておこなうことが必要です。
■自見 庄三郎 (国民新党) 臨床研修医制度、医科系学部の定員増など医師養成教育の抜本的改革が必要だ。医師増が実現するまで10年かかる。今すぐ改正に着手すべし。
■広津 素子 ( 自民党
) 初めに目標削減高の数字があるのは、おかしいし、合理的でない。必要な医療は、できるだけ低いコストで行うべきであるし、必要ない医療は、行ってはならないのであるから、目標削減高以外の方法で、医療費の適正化を行うべきである。なお、人口や高齢者が増えると、医療・介護費用は、増えるのが、当然である。
■清水 鴻一郎 ( 自民党
) 撤回するのみならず、緊急対策として新たな財源を確保すべきである。
■三日月 大造 ( 民主党
) わが国の社会保障制度は、「先進国」として不自然、相応しくない状態に抑制され続けてきました。その抑制された少ない枠内で、保健・医療・福祉(介護)が汲々とコストシフティングを繰り返してきたのがこの間の「制度改革」の実情です。先進国水準への社会保障費の適正化こそが「社会保障制度改革」であり、国民にとっては無意味な「骨太の方針2006」閣議決定の廃止はまずその第一歩といえるでしょう。小泉長期政権のツケを負うかのような安倍・福田両政権ですが、最大のツケを払い続けさせられているのは国民であることを忘れてはなりません。
■金田 誠一 (民主党) 国内総生産に対する公共事業と社会保障への国庫支出額はアメリカ・フランス・ドイツ・イギリスなどでは社会保障費が公共事業費の2倍から10倍となっている。
これに反して、日本は逆に社会保障費が公共事業費の約半分となっている。このことからも、いかに社会保障費が低く抑えられていることが分かる。必要なところに必要な予算を付けることは当然である。
■広津 素子 (自民党) 道路特定財源が、環境税として一般財源化されても、真に必要な道路は作らなければならないし、環境技術の開発や推進、新交通システムのためのインフラ整備も必要である。
そのため、公務員改革とも連動した独立行政法人・公益法人の整理等で、どの程度の歳出節約ができるかにかかっているが、状況を見ながら、なるべく多くの支出を医療・介護などの福祉に回したいのは、やまやまである。
■三井 辨雄 (民主党) 医療に携わる者の一人として、より多くの財源を医療福祉に投入してほしいという思いですが、社会保障と同様に教育分野にも等しく配分されるべきと思いますので、金額は決めていません。
■片山 さつき ( 自民党 ) “医療”には産業としても科学技術としても大きな可能性があり“医療”の概念はどんどん拡げ伸ばし人類の幸福に貢献すべき。その上で公的医療でどこまで見るべきか、ありうべき案を示して国民が納得できるような透明で中間搾取のない受益と負担のあり方を確立すべき。
■自見 庄三郎 ( 国民新党 ) OECD先進国なみの9%への引き上げは私および国民新党の公約だ。これを達成したあと、仏、独なみの10%すなわち、総医療費を50兆円まで増やすべきだ。高齢化時代の高福祉には必要な額だ。
■塩崎 恭久 ( 自民党
) 名実共に国民が安心できる持続可能な医療の再構築に必要な医療費を確保。
■仙谷 由人 ( 民主党 ) GDP比10%程度は許容されるのではと考えています
■鳩山 由紀夫 (民主党) 日本の対GDP医療費は他の先進諸国に比べ少ないと認識している。医師不足や病院閉鎖にみられる医療崩壊を食い止め、医療提供体制を整備するため集中的な財政投入が必要であると考えるが、対GDPの目標値は設定していない。
■森田 高 ( 無所属
) まずは、1%純増。中期的に2015年10%、2025年12%〜13%必要
■三日月 大造 ( 民主党 ) 現在の医療費増加は、過去のインフレや医療機器・薬剤費増大と異なり、高齢化による自然増が主要因。その状態で医療費抑制のみを追求すれば、低コスト医療の純化もしくは、保険から自己負担、医療から介護といった単純なコストシフティング(付け替え)に向かうしかありません。医療費抑制・患者負担拡大が重ねられた結果、日本の医療費の対GDP比は2004年に主要先進国(G7)で最下位に転落、逆に患者負担割合は最高という状態。その帰結として2006年改正を前後し、地域医療と医療保険の崩壊として医療需給の両面から眼に見える形となって噴出してきたのでしょう。
このような状況での当面の「医療費適正化」はイギリス・ブレア政権に習いヨーロッパ諸国平均値の対
GDP 比 9%までの引き上げがひとつのポイントになるのではないかと思っています。
医療サービスでは「コストとアクセスと医療の質」のうち2つについては両立できるが3つの両立はありえないとされます。日本では前2者の維持に「医療の質」、特にモノ(高額医療機器・薬剤・建物等)はまだしもヒト(配置基準・育成等)が犠牲にされてきました。医療改革ではニーズにかなった「質」とリーズナブルな「価格」の困難な両立以外に国民合意は得られない。イギリス同様、医療の質から「あるべき21世紀の日本の医療」の追求に着手すべきです。奇しくも
2007 年は主要産業別の就業者人口で「医療福祉産業 591
万人」が「建設業 577
万人」を初めて逆転した年でした。この未来型産業分野を健全に育成していくことはきわめて重要です。国民常識と乖離した道路計画などに象徴される発展途上国型の「土建国家」から、国民合意で先進国型の「保健・医療・福祉国家」への転換を是が非でも急がなくてはなりません。

■ 上記の図は、設問1と設問5に対する解答から作成した。円の大きさは人数を表す。
■ 設問1と設問5に対する回答を、各選択肢内の数値の中央値で置き換えてプロットした。
■ 各議員の氏名は、設問3に対する回答にしたがって色分けされている。赤字:設問3で、a.2200億円/の削減を堅持すべきと回答した議員、青字:b.撤回すべきと回答した議員、緑字:c.その他と回答した議員。
■ 上記の図は、設問1と設問5各々1個の記号回答がなされた場合にのみプロットすることができるため、そのカテゴリー外の回答の議員は含まれていない。以下に、プロットされていない議員の回答を、補足として
(党) 議員名[設問1の回答、設問5の回答]
の形式で記載する。なお、[その他]は、記号回答がなくコメント記載があったものを指す。
(自) 飯島夕雁
[d,e,f、d,e]
(自) 臼井日出男 [その他、e]
(自) 塩崎恭久 [その他、その他]
(民) 大河原雅子 [その他、その他]
(民) 岡本充功 [d,e、その他]
(民) 尾立源幸 [e、その他]
(民) 下田敦子 [e、その他]
(民) 仙谷由人 [e、その他]
(民) 田島一成 [その他、d]
(民) 鳩山由紀夫 [e、その他] |
(民) 舟山康江
[e、その他]
(民) 松本龍 [e、その他]
(民) 三日月大造 [その他、d]
(民) 水戸将史 [e、無回答]
(民) 蓮舫 [その他、その他]
(共) 井上哲士 [e、その他]
(共) 紙智子 [e、その他]
(共) 塩川鉄也 [e、無回答]
(共) 高橋千鶴子 [e,f、f]
(共) 吉井英勝 [その他、その他] |
2008年8月7日全国医師連盟
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